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大航海時代4〜ふなのり〜
マリア世界を巡る〜インド洋編
おひさしぶりね、私はマリア・ホアメイ・リーよ。
幽霊船同様の一艘の船は、おバカ三人組(イアン・ジャム・ユキヒサ)の機転のおかげでなんとか大陸に辿り着き、マダラスカルとかなんとかという街についた。
ひさしぶりの大陸の街は幸運にもシエアを丸ごと獲得ができた。
――特産物は…まだないけれど。
「おぉぉ〜! ひさしぶりの肉でご・ざ・る〜!」
「コラ! ユキヒサ! それは俺の肉だぞ!」
「うう…こんなに美味しいものはマリア様の手料理以来でございます〜!」
あのイアン…わたし料理なんて作ってあげた覚えないけど?
航海士・水夫達はひさしぶりの大陸の食べ物にがついでいる。
私もちょっとお相伴いただいて…、おいしい!
「あ〜! 提督俺らの分ものこしておいてくださいよ〜!」
――ゲプ……。
あ、失礼。
淑女としてはしたなかったわ。
さて、これからどうしましょう…。
船一艘だけでの航海はままならないと思うの。
一応シェアを占めている街からは仕送りがくるのだけど、朝廷との契約でその四%を国にとられてしまう。
くそ朝廷が…。
あ、いけない、いけない。
……トルネード一発国にぶっぱなつ想像してしまったわ。
私西洋の脅威から国を守らなくてはいけない身だというのにっ!
「提督…」
あ、イアン。
ねぇ…なにかいい案はないかしら?
「そうですね…とりあえず……帰還しませんか?」
――帰る…か…。
私はう〜…と唸った。
ここはある意味世界の中心。
アジアと西洋の中間点。
どちらも同じ距離なのだ。
ここまできたらいけるところまで大陸をまわってみたい。
インド洋を超してここまできたのだから…。
――世界を見に行く!!
私はそう宣言した。
「マリアさまがお決めになられたなら。私はどこへでもついていきます」
……きゃっ!
いきなりイアンに後ろから抱き締められて私は悲鳴をあげた。
ちょっと、イアンっ、うわ、お酒臭いって、あんた下戸っていってなかった〜ぁ?
「ふふ、マリアさま……愛おしいですよ」
吐息に似た囁きをきいて飛び上がった。
こいつもしかして…お酒飲むと女口説くとか! そういうのあるじゃ。
…………いやぁ〜ん、でもくどかれてみたいかも…。
――は、は!
だめよ。ここで妥協したら船の風紀が乱れてしまうじゃないの!
清く正しく美しく!
イアン! 無礼だ!
またまた私の手がイアンの頬に的中!
異国の空に景気よい音が響き渡った。
もみじを刻まれた頬に手を添えて、よよよ…とその場に崩れるイアン…。
「わ、わたしはいったい……」
――ああ、まただ…。
内心後悔の涙を流しながら、憤然と…いや毅然とイアンの元からさる私。
いつになったら素直になれるのかしら……。
☆
しかぁし!
――世界を巡る旅の第一歩はポルトガルの不正商人に阻まれた。
くそ〜! なんでぇ!
ポルトガルの白ブタ〜!
ソファラの街を出た瞬間、街が攻撃してきて命からがら逃げた…。
それは東アフリカどの街にいっても同じで結局インド洋に向かうしかない…。
――みてなさいよぉぉ! ジャンク五隻でトルネード搭載で復讐してやるんだから!
あらいいおとこ……、
私はウッディーンをみて思わず呟いた。
私の名前はマリア・ホアメイ・リー。
中国の海を守る女提督よ。
西へ航路をすすめようとしたのだけど、ポルトガルの白ブタさんに目をつけられて、今の戦力では無理と判断して一度本土に戻ることにきめたけれど。
シェン小父のせいでとんでもない航路でインド洋をすっとばした私達。
いま改めてそのインド洋にきたのだけど、風が凄く気持ちいいの。
貧乏揺すりしなくとも、満風――。
こーゆうときこそ、ハンモックで眠りたいものよね…。
と、善は急げと自室にハンモックをつくったときだった。
「大変です提督!」
な、な、なにイアン! 襲撃?!
「街が見えましたぁ!」
――あ、そ。
「かまってくださいよぉ〜提督!」
うわっ、なんであまえてくるのよっ、私はねむいのっ!
イアンを無視してハンモックにのぼったけど、しつこいイアンが私の足を引っ張った。
安定の悪いハンモックがぐるんと一回転。
私は――ドシンっと床に落ちてしまった。
けれど、その下にはイアンが下敷きになっていて……。
わ、大丈夫イアン!
私はピク…、とも動かないイアンの白い頬をたたいた。
もしかして、うちどころ悪かったの、かな?
改めて、イアンの顔を覗き…あちゃ……、と顔を覆った。
どうやら、私の肘が少しイアンの鼻にあたったらしく鼻血をふいていた…。
……いい顔がだいなしよぉ…。
私はあわててイアン鼻をフキフキ…していたとき、ジャムがもとからあいている扉を律義にもたたいて声をかけた。
「お〜い…提督お客人……って、お邪魔しました〜! ……へへっ」
は、は? 「…へへっ」てなんで変な笑い方?
!
私はイアンに馬乗りになって鼻を拭いていたことに気付いた。
はたから見たらきっと意味深なムードだ!
「マリア…」
そう思っているそばから、イアンの腕が急にのびてきて私の腰にまわしてくる。
ちょ、ちょっとイアン! わざと、わざとなんでしょ! 腰にまわす手はなしなさいよ!
はなへし折るわよ!
バキ!
★
「あの、マリアさま…なんで私の鼻骨折してるんですか…?」
鼻声で答えてくる。
自分のむねに手を当てて聞いて見なさい。
「マリアさまひとすじ…マリアさまひとすじ…マリアさまひとすじ………」
鼻に包帯を巻いているのでいまいち間抜けた顔で言われてもあまりときめかない。
あ〜よかったですね、でところでジャム、私に用事って誰なの?
「んとな、この海域を支配しているウッディーンってやつだよ、おれらと同じように列強阻止をしているんだとさ」
え…、同じ目的?
私は興味が湧いてバスラまで船を漕ぎ、彼に会うことにした。
――う〜ん…ウッディーンねえぇ。
名前は聞いたことあるけど、私のイメージだとすごく脂ぎってそうな……。
バスラの港にどでかく構えるモスク様式の邸が彼の本拠地。
――ちょっと端正な男の人に案内されながらウッディーンの想像を巡らせた。
ま、同じ同士だし今は喧嘩吹っかけておくのはやめておきましょう。
室の前まで結論をだして、いざ扉をあける。
とたん濃くて上品な乳香が私を包む。
わぁ…甘い香り…。
「おや、これはお美しい提督だ」
流暢な中国語で彼……ウッディーンは感嘆し、お付きの女達になにごとか囁いて私のところにやってきた。
「ようこそ…。マリア提督私はアブラハン・イブン・ウッディーン」
――わ、私はマリア・ホアメイ・リー、です。
その優雅な物腰と甘いまなざしに思わず私はのまれてしまった。
いい男だわ…。
でも私の名前をきいてウッディーンの眉がかすかに顰められた。
「マリア?」
あ、一応洗礼名をもらっているの、よ。
「じゃあ、キリスト教徒なのですか?」
声が急にかたくなるのを知って私はあわてた。
そうじゃなくて、洗礼を受けれいれば西に、ヨーロッパのひとたちと対等に渡り合えると思って便利だとおもって、私は多宗教です。
アーメン、波阿弥陀仏、六根清浄……、アッラー……、って、神様ばかにしちゃったかしら?
「そうなのですか…」
けれどウッディーンはホッとため息をつくと同時に声に刺がなくなった。
「じゃあ…ホアメイ…と呼ばせていただいてもかまいませんか?」
ホアメイ……。
彼がいうといい響きに聞こえるのはなぜかしらん?
私はぽ〜…となりながらうなずいた。
そのとき、イアンの物凄い嫉妬のまなざしに気付いていなかったのは私だけだったという。
そのあとウッディーンの誘いで食事会をし、しばらく歓談した。
最後にもう少し滞在すればいいと誘われて私はその好意に甘えた。
☆
「なんなんですかぁ! あの男は!」
退室して用意された部屋にもどると怒りをあらわにイアンは叫んだ。
いい男でしょ?
――……じゃなくて、なんで私の部屋にはいってくるのよ。
「提督…彼に気があるでしょう?」
彼は私の質問に答えないで質問で返してくる。
えぇ〜?
「やはりあるのですね…」
イアンは柳眉を怪訝に顰めて、私の手首をとって壁に私を押し付けた。
ちょ…ちょっとイアン! あ、お酒飲んでるんでしょ…?
「お酒なんて…のんでませんよ」
あ…ここはあまりお酒なかったんだっけ…っていうかシラフ!
ちょっとまって、そのあの!
「マリア…私はいつでもあなたを欲しいと思ってるんだ」
イアンっ!
私は恐くなって一生懸命腕をふりほどこうとするけれど本気になった彼の力は女の力では無理だった。
彼の吐息が唇が首筋にかかり――熱い唇があてられた。
私は小さく喘いで身が竦んだ。とたん顔が赤くなるのがわかった――イアンは私の表情を見てどこか意地悪げに目を細めて続けよとする。
ど、どうしよう、力は抜けてしまう……っ
――が、
立て付けの悪い扉が甲高い音をたてて、それより嬉々としたユキヒサの声が割って入った。
「て〜い〜とっく! 拙者お刺身を作ったでござる……あ…」
――ナイス!
私は唖然としたイアンの隙をついて腹部にひざをいれた……とおもったら股間にケリをいれてしまったらしく、
「☆♪※?………おうっ☆」
何語か分からない言葉を発して股間をおさえながらイアンはくずれた。
や……女の人のように美形だけどやっぱれっきとした男の人だったのね……。
☆
「イアンのきもちもわからなくね〜けどさ、もうちょっと落ち着けやな」
「そうでござる。別に提督はイアンどのに全く興味がないわけではないんですから」
イアンを運んだユキヒサはユリアン、ジャムの相部屋で彼を慰めていた。
「でもでも、マリアさまはきっときっとウッディーンに気があるに違いないです。明日もウッディーンのところへ行く気なんですよぉ…うっうっ…」
さめざめ泣く彼の姿を見てその場にいる男どもはドキッとした。
もしイアンが男ではなかったらあのてこの手を使ってものにしているかも知れない程の美しい女泣き。
その様子をみやっていたユリアンは「あっ…」と手をうった。
「僕いいことかんがえちゃったよ…! ウッディーンに提督を奪われ前に、うばってしまえばいいんだよ!」
「だから、それをやろうとして失敗したんでござるよイアン殿は」
そのユキヒサの言葉がさらにイアンに追い打ちをかけてしまったらしい。
ユリアンはちっちっ、と唇の前で人差し指を振っていう。
「お祖父様が言ってた。『恋は先手必勝』と」
「いまいち理解できねぇな。どんなことだ? おもしろいことかいな?」
「もちろん、イアンどのだからこそできる奇策さ!」
ユリアンは不敵な笑みを浮かべて三人の男達に耳打ちをし、ユキヒサもおおっ! と手をうって「カゲマか!」と日本語で叫んだ。
★ ☆ ★
ウッディーンはひとり回廊に佇んでいた。
紺色の空に濃淡ある雲が浮かびまるで三日月が船のようである。
すでに術中にかかっていることもしらないマリアに嘲笑をおくった。
あの乳香は女が嗅げば見た男に一目惚れする作用があるものだ。
気は進まぬが…今後あの女が力をつけたら列強どころではなくなるような気がしてならない――早い内に芽をとろう。
それに華は陸で咲くからこそ美しいく心に残るもの――。
そのとき、白紗の衣を着た女が横切った。
挨拶もないのに少しむっとしてその女をみた一瞬にしてウッディーンは心を奪われた。
――白い肌、波打つ金の髪、西洋で流行している彫像のように整った容貌……。
彼女はウッディーンと視線があうと、恥じたように視線をしらし慌てて逃げていこうとする。
「まってくれ!」
ウッディーンはすかさず彼女の手をとった。
「やっ…」
その声も妙に鼻声だが、愛らしい。
「そなたはマリア提督の侍女か? 私の邸にはいないな?」
女はコクンとうなずいた。掴んだ手が幽かに震えている……怯えて私が恐いのか?
「そうこわらなくていい、なにもしない」
そういいながら、手をはなしたら彼女はもう自分のところにあらわれないような気がしてはなす気はおきなかった。
「今宵だけでいいただそばにいてほしい」
その白い手に唇をおとすと、彼女はぽろぽろと涙をながした。
まるで真珠の涙だ――。
その涙と美しい顔に完全に心奪われた。
☆
朝。
「とうとうあいつかえってこなかったな〜いままでまってたのに」
「本当にカゲマになってしまったんでござるか?」
「ははは、そうなってしまったらこわいねぇ〜。彼、女装させたらそんじょそこらの美女なんかメじゃなかったから」
ハハハハ…! と男どもの爆笑の声を私はきいて、大きなため息を吐いた。
「お、提督ジャン…! おはようってどうしたんだ、目ぇあかいぞ?」
「微妙によろよろしてるし…?」
あ、おはよう三人とも……。
「おっと、大丈夫かい? 提督」
よろけた私をとっさにユリアンが支えてくれた。
ありがとう、じつはね昨日ずっとね眠れなかったの…。
「え、どうして?」
……なんかさ、イアンのことがきになっちゃって。
三人その言葉を聞いて黙った。
昨日、あんなことがあったでしょ。
イアンが男の本性をあらわしたことか、と三人は察し視線をあわした。
でね、ちょっとかんがえちゃったの、わたしイアンのことをどうおもっているのかとかさ…。
「で、ど、どう思ってるんですか?」
……すきなんだって。
気のおけない仲間だからこんなこといえるのか、それともイアンがこの場にいないから素直になれるのかわからなかったけど。
「………やばいでござる! やばいでござる!」
とたん、ユキヒサがガグガグと青ざめなんだか分からない日本語を喋り出した。
「カゲマになってしまってでござるよ〜! イアンのどがっ!」
……………カゲマって?
「こらユキヒサだまれって!」
「だって、二人とも両思いだったのに……切腹しておわびを〜!」
「ちょっとまってよ、イアンがそうなったとはかぎらないだろ!」
とたん切腹騒ぎになったユキヒサをジャムとユリアンがとめに入る。
そのとき、ウッディーンさんの侍女が優雅に礼をとって朝食の準備ができたので案内いしますとやってきた。
私は取りあえずお腹がすごく減っていたので、三人の騒ぎはともかくおいといて侍女さんについていった。
彼等もハラヘリには叶わなかったのか、「あ〜おれらもくいにいく〜!」とわたわたとついてきた。
☆
そこで私は信じられない者をみてしまった。
ウッディーンのそばに寄り添っている侍女の中になんだか良く見なれた人物が紛れ込んでいた。
「は〜い、御主人様、あ〜んして?」
「ははは…もうたべられませんよ、でもたべられるかも…愛ゆえに」
「キャ素敵(すでに男の声)」
でも気付かない。
………ちょっと、三人とも、あれって…イアンよね。
手ずからウッディーンの口に食べ物を押し込んでいる美女は。
「……………………………………はい」
なにが、あったの?
私の黒いサクリア……を感じ取ってか三人は平身低頭して事情を説明した。
1・先手必勝――マリアを奪われる前にこちらからウッディーンの心を奪う策。
2・女装させて、どこまで行くか遊んでみたかった。
3・イアンは乗りがいいから遊びからかうのにちょうどいい(ジャム談)
…………ふ〜……ん。
「あの、マリア様……?」
だまっておいで、
ドスの効いた声で三人にいいおき彼等のもとへ歩いていく。
「おお、ホアメイ、」
……そのひとは…。
「ああ、すまぬ、彼女は君の侍女らしいが、昨夜偶然であって」
……で、ヒトヤすごしたんですか?
「こ、恐いな…べつにやましいことはしていない」
……じゃあ、その手は?
ぎろりと、イアンの手を掴んでいるウッディーンと青磁のように青ざめて震えているイアンをみやった。
ウッディーンは切な気にイアンをみやり一言。
「この侍女を私にくれ!」
……ざっけんじゃないわ!
私は料理をぶちまけ、イアンの薄い服をびりびりにやぶり捨ててやった。
――こいつは、男よ!
「いや〜ん…」
正体をばらされたイアンは男の大切な部分をミロのビーナスのようにかくしていった。
ウッディーンは大きく目を見張り、そんな…と呟いて卒倒した。
☆
「ほんとうになにもありませんでした…いや危ない雰囲気だったときもあったですけど、ハイ…マリア様に捧げる貞操は守れました、ハイ」
もはや、まもんなくていいわよ。まもったってのも嘘でしょ?
……もう男色に走ってくれても私には関係ないわ。
「そんな〜ぁ! でもそんな冷たいマリアさまが大好きです」
私は大きなため息をついた。
どんな状況にあろうとこの男はかわらない。
あの事件以来、ウッディーンさんに顔見せできないというか、気まずく一応は同盟をとりつけたけれど二度と顔を見たくないといわれた。
…………ま、いいんだけどね。
一路、帰還するために東へ舵をとった。
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